2人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫か、どした?」聞いてくるのは、愛嬌のある猿顔のガキ大将、ケンちゃん。毎年、僕のことを遊びに誘ってくれて、面倒を見てくれる子だった。今みた子供のことを話すと、すぐ帰れとケンちゃんが言い出す。
「おめぇのじさまの井戸から来たんだべ。おめぇ井戸には気をつけえ。呼ばれんぞ」
「井戸がどうしたの?」
「じさまに聞けやあ。おめぇんちでずっと守っとるんじゃぞ」
よくわからないなりに何かまずい状況なのだと感じた。僕は、ケンちゃんと皆に従いその日は帰ることにした。
庭で祖父は夏祭りの準備をしていた。夏祭りで祖父は、毎年、特別な役割をこなす。広場で盆踊りが終わると、やぐらの天辺に飾ってあった人形を大人たちがうちの井戸まで持ってきて、祖父が井戸の中に投げ込むのだった。不気味な儀式だと思う。はじめの年にだけ親に連れられて見たけれど、僕は泣いてしまって、次の年からは盆踊りの後は子供達が広場で花火をするのに参加するようにしていた。祖父は今年も、どこで作ってもらったのかわからないけれど、着物を着た藁でできた人形の出来を確かめていた。
夕飯時に川での体験を祖父に話すと、この休みはもう川に行くなと言われる。理由は教えてもらえない。井戸のことについても、絶対近づくなと言われるばかりである。なんだか子供扱いされているようで不満が募った。ケンちゃんだってもっと詳しく教えてくれればいいのに、祖父に聞けとばかり。結局ケンちゃんもよくわかってないんじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!