現代に魔術術式が広まった訳

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僕の話をしよう。僕は現代における未知の領域へ最初に足を踏み入れてしまった只のおじさんだ。僕の仕事はクライアントから請け負った仕事を黙々とこなす中世の奴隷みたいな扱いを受けている、しがないプログラマーだ。 僕が担当した仕事は単純なものだった。過去に出回っていた誰かが創ったプログラムをアップデートする事。その時は最先端だったかもしれないが、日々日進月歩する現代では直ぐにそのプログラムは過去のものとなり、誰も使わなくなってネットワークの海に沈んで行く。そんな放置されているプログラムのコードを僕はサルベージしては現代の技術に合うよう直していた。 そんなある日の事だった。僕はいつもの様にサルベージした1つのプログラムを自分なりの方法で手直しをしていた。そしてそれを実行してしまった事で僕の未来は決まってしまった。 それは現代に魔術術式が誕生した瞬間だった。 僕がサルベージしたそのプログラムは穴だらけの未完成なもので、実行しようにも起動する為のキーが無く、計算式が間違っており、出来損ないの酷いコードだった。 それを動かせる様に起動キーを用意して計算式を直した所、文様が浮かび上がるプログラムが完成した。そしてエンターキーを叩いてそのプログラムを実行した時、浮かび上がった文様から魔術が発動してしまった。 僕がサルベージしたものは魔術術式の出来損ないだった。それは過去の技術だけでは辿り着けなかったソース、現代における未知の領域には後少しだけ足りなかった起動キーの欠如。何より雑でどうしようもなく間違った計算式は文様を浮かべるに至らなかった。 それを僕が完成してしまった事で人類は未知の領域に足を踏み入れたのだ。 世界に魔術術式を巡る争いが始まるのは時間の問題だろう。僕が見つけたコードはほんの一握りで、ネットワークの海には数え切れない程大量に魔術術式の出来損ないであるコードが沈んでいるのだから。 そのコードを最初に創ったのは誰なのか僕は知らない。創られた年代的にも故人だと思うし、コードに名前を残す人では無かったから名前で検索する術もない。 そして僕は政府関係者を名乗る黒服の男達に連行されて、ネットもテレビも情報源を一切排除された隔離施設の中に閉じ込められた。 僕が最初に起動した魔術術式はとても単純だけど強力な魔術。起動した魔術は『手で魔術術式を描く』だった。
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