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夕日はもう三分の二ほど見えなくなっていて、あたりは暗くなってきた。
はぁと息を吐くと白く目に見え、一瞬で消えてしまった。
コートやマフラーに身を包んだ浩太と夕実はいつものように帰り道を歩いていた。
寒そうに両手を口の前に持って行き、息を吐く夕実に対し、浩太はコートのポッケの中に手を入れて温かさを保とうとしている。
「寒いな」
「寒いね」
「わかってたけど、手袋忘れたのは痛いよな」
「しかも、二人揃ってね。手の感覚無くなりそう」
「家帰るまでだからさ」
「そうだけど」
寒さで顔が赤くなり、元気がなくなっている夕実は、浩太の方を力ないジト目で見る。
そんなことわかってるよ。
そう言いたそうな顔に浩太は「あはは」といつもより元気なく笑う。自分も寒さで相当やられているらしい。
「でもさ、今日のは綺麗だったよな」
「綺麗だったけど……」
「けど?」
「寒い」
夕実はぶるりと寒気が走り、体をさすって寒さを誤魔化そうとしている。
高校に入ってから髪を切り、中学までしていたツインテをやめ、髪を下ろすようになった。
そのおかげで首回りはマフラーもあることからいくらか暖がある。
耳も髪で隠せば、少しはましだ。
でも、この寒さには我慢が出来そうになかった。
いつもより帰りが遅いことも関係してか、ここ最近より寒く感じる。日が落ちるのは早いものでさきほどまではぼんやりと陽があったのに、もうあたりは暗くなっている。
――この暗闇を一人で帰らなくて済んだのは、喜ばしいことなのだが。
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