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「そんなに言うなって。どうせなら、今日のこと話そうよ」
「……それもそうだよね。ごめん」
「別に謝んなくても。夕実は今日の楽しかった?」
少しうなだれて、マフラーで鼻下まで隠してしまった。
いつもの夕実らしくはないが、今日はいつもと違うことをしていたので疲れもあるのだろう。
まあ、当たり前の事か。
「楽しい……? 楽しいというよりはやっぱり綺麗だったって感じかな」
「そっか。俺は楽しかったな。いろんな星があってさ!」
「そうだね。星座もあんなにあるなんて」
「まだまだ勉強不足だったなー」
そういう浩太はとても悔しそうではなくて、まだ見ぬ世界への憧れや好奇心を目に宿し、キラキラと輝かせていた。
二人は学校の校外学習でプラネタリウムを見に行ったのだ。中々遠出をすることのなかった二人にとっては、その室内に広がる空は惹きつけられるものだった。
動く椅子にもびっくりしたが、それよりも自分の真上に広がる世界に釘づけになっていた。
宙はあんなにも暗いのに、あんなにもキラキラしていた。
「あそこにあるんだよな」
「何が」
「なんでもない」
よくわからない浩太の言葉に夕実は首をかしげる。
その様子を浩太はニッコリと笑いかける。
そして、不意に夕実の右手を取ると自分の左ポケットへ手をつないだまま入れた。
突然の行動に驚いた夕実は浩太を目を見開き、見上げる。
「どうしたの、急に」
「こうしたら、温かいだろ」
確かに繋がれた右手は温かい。でも、今までこんなことをしたことはなかった。
その点が繋がらない行動に夕実は困惑していた。
「左手が寒いんだけど」
「そこは我慢してよ」
カラカラと笑う浩太はいつもの浩太だった。
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