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「は?」
そう聞き返したのはパッツン前髪に髪を二つ結びにして、赤いランドセルを背負っているまだ幼気な少女だった。その言葉と表情は彼女の年齢と比例していないようであったが。
「何言ってんの、空にあるわけないでしょ」
「んーや、あるよ!」
目にかからない程度で毛先が少し軽いのだろうかところどころ跳ねている黒髪と活発そうだが鋭さがある目を持つ少年は、少女に対してきっぱり言い放つ。その顔は少女のジト目や呆れている表情とは、逆に楽しそうに笑っている。
二人が歩く道は川沿いで、川と道路の間に芝生の坂が広がっている。この日は天気が良く川も光に反射してキラキラ光っている。芝生には寝っころがっている人もいる。
「だったら、夢にはとどかないよ。パパだって空には手とどかないし」
「とどくんじゃないよ!とりに行くんだ!」
「……空、とぶの?」
「とぶよ」
「ふーん」
一瞬パチクリと見開いた目もすぐに元のジト目に戻ってしまった。そして、少年が言った空を見る。……あんなとこに夢なんてあんの?
空は飛んでみたい。でも、人間は空を飛べないんだと知ってしまった。
少年は知ってるのだろうか。
人間が空を飛べないことを。
人間は地面でしか生きれないことを。
知らないか。だって、コイツだもん。
空を見上げるのをやめて、隣を歩く少年をちらりと見る。…いつ見ても、元気そう。
「そしたら、会えなくなるね」
「なんで」
「だって、ゆみはとばないから」
「ゆみはとばないの?」
「とばないよ」
「なんで?」
「人だから」
「人でもとべるよ」
「とべても、ゆみはここにいる」
「なんで?」
「ここが好きだから」
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