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わざわざ遠くにいく必要なんてないんだ。
少女――ゆみは歩きながらそんな風に思った。短い質疑応答はいつものことだ。それはゆみが必要以上に物事を語ろうとしないから。そして、少年がゆみのことを聞いてくるから。
ゆみの答えに少年は未だに「なんで」と聞きたそうに首をかしげている。しかし、その答えから必死に自分が納得する答えを探そうとしている。
「おれもここ好きだよ」
「知ってる」
「でも、空行きたい」
「行けばいいじゃん」
「じゃあ、ゆみも行こうよ」
「別に空、行きたくない」
特別空に思い出があるわけでもない。空に行ってもそこにあるのはただの空だ。地面のように安定していて、安心できる場所なんかじゃない。
安心できないんだったら、怖いんだ。怖いとこになんで行かないといけないの?
「そっかー。行きたくないか」
「うん。ここでいい」
「じゃあ、バイバイかー」
「そうだね」
「さびしい?」
「別に」
実際は少年がいなくなったことがないので、寂しいかどうかの判断材料不足で、答えが見つからなかっただけなのだが。
「おれはさびしい」
でも、さらりと少年がそう答える。
「……じゃあ、なんで行くの」
少女には理解が出来なかった。なぜわざわざ自分からそんな思いをしに行くのか。
少年が寂しいのなら、きっと少女だって寂しいと思うはずだ。相手だって、そんなことわかっているだろう。第一自分自身が寂しいと思うのに、なんで?
少女のジッと疑いをかける時と同じ目の形で、しかし、どこか寂しそうな瞳を向けられて少年は、「んー」と言葉を探す。
「それでも、行ってみたいんだ」
ぱっとピースが当てはまるように自分の心を表す言葉が見つかったのだろう。少年は、あっと言葉をもらしてから、そんな風に言った。
少女はそんな少年の言葉にやはり理解が到達しなかった。
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