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二人の少し先を飛ぶ紙飛行機は真っ直ぐ進んでいたが、風によって進路を変え、川沿いの方へと引き込まれていった。それは、川に入ることなく、芝生で寝っころがっている人の腹へと着陸した。
仮眠程度だったのだろう、紙飛行機の着陸先の人は自分の腹の上に自分が記憶していた時とは違い、ものがあったことを確認し、首を伸ばし道路の方へと目をやる。
逆転した世界に映ったのは学ランとセーラー服を着た少年少女だった。
「ごっめーん、起こしちゃったー?」
「なんだ、浩太と夕実じゃねぇか。また飛ばしてたのか」
「うん。そーだよー!」
「昔から変わらねぇな」
そういうと三十代半ばほどの青年は紙飛行機を川の方へと飛ばした。紙飛行機は風に乗り、川を通り越し向こう側の芝生へと無事着陸した。
その様子を見ていた少年は「ありがとーー!」とこちらに叫び手を振っている。ひらひらと手を振りかえすと少年は満足したように帰路についた。
彼らは小学生の時からこの川沿いを通学路としていて、ずっと二人で帰っている幼馴染というやつだ。時々こうやって川沿いの芝生に来ては寝ている青年とは面識があった。
紙飛行機を飛ばすのは二人の趣味のようなもので、折り方も日によって違う。帰り道で折っているのか、学校で折っているのかは知らないが、二人は決まって帰り道でそれを飛ばす。
ゴミとして処理される紙をわざわざどうして飛ばすのかと思ってはいたが、それは二人がいつも行きでごみを拾っているからだとは知り合ってからずいぶん後に知った。
まあ、こんな都会とはお世辞にも言えない地域で人通りもそこまで多くはないので目立つゴミは少ないのだが。それも、あの二人のおかげということだ。
さきほど青年が飛ばした紙飛行機は反対側を歩いて帰っていた小学生の一人によって持ち帰られた。どうやら、気に入ったらしい。仲間に見せては誇らしそうにしている。平和だ。
しかし、その紙飛行機の中身を見ると驚いたような顔をした。まあ、それはそうだろう。いつもとは違う紙だとは思ったがまさか、本当にするやつがいるとはな。
青年はそうしてまた目を閉じた。川の音を聞きながら、まだもう少しここにいたいのだ。
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