序章

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序章

 槓桿(こうかん)を引いて弾丸を込め、90度起こして押し戻す。  引金を絞る。  ドーンと間延びした発砲音とともに、硝煙が上がる。100m先でゴブリンが倒れる。  銃を傾けて薬莢を捨てる。  右手の掌と小指で素早く槓桿を操作、指の間に挟んだ弾丸を込める。  何度も練習して身につけた速射だ。  数匹を始末したところで時間切れ。数百匹の群れが、すぐそこに迫ってる。  わたしの隣で、タタタンと小気味良い音が響く。相棒が構える、ベレッタM1938機関短銃。  器用に使いこなしてるけど、元はわたしが買ったやつ。わたしが撃つと弾丸のむだって取られたんだよね。  周囲のゴブリンを薙ぎ払った相棒が、いい笑顔でサムズアップ。黒い詰襟軍服に身を包んだ容貌は、わたし好みのいい男、じゃなくて、毛むくじゃらのたぬきだ。マシンガン片手に無双するたぬきって、どうなんだろ?  たぬきがゴブリンを食い止める間に、停めといたスクーターに飛び乗って、エンジンをかける。おしりが窮屈。痩せれわたし。  始動音を聞いて荷台に飛び乗ったたぬきと一緒に、防衛ラインまで後退。三輪スクーターは未舗装でもそこそこ走れるから楽だわ。  後ろから時々爆発音がするのは、たぬきの仕業だ。有効範囲の狭い九九式手榴弾でも、足止めには十分みたい。だけどそれ、1発5000円。  前方にバリケードが見えてきた。あとは守備隊の隊長に偵察結果を伝えるだけの、簡単なお仕事。  今回も弾薬を使いすぎて、正直頭が痛い。実包50発で5000円、手榴弾4発20000円、たぬきが派手にばら撒いた9mm。弾薬けちって、白兵戦で血塗れになるのも嫌だけど。  硝煙に塗れた毎日、周りはたぬきと筋肉オヤジ。煙の匂いにむせる。  おまけに減らないウエスト。  華奢で可憐な美少女に転生して、いい男に囲まれる素敵な日々は叶わぬ夢。  わたしの異世界生活は、今日も残念。
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