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「まぁ、なんて可愛い娘さんでしょう」、祖母の声がどこかから聞こえた気がした。
「アレこそ天使よ、ウィリー」
耳の中でこだました祖母の声。
次に気が付いた時には。
歩み寄った自分の口が勝手に、彼女に交際を申し込むのを聞いた。
その夜。レストランで食事をした後で、梅子の耳元で「君が欲しい」と囁いた。
微笑んで頷くカノジョ。
抱き寄せて熱いキス。そのままホテルのスウィートルームで愛を交わした。
そこからが、怒涛の困難の始まりだった。
梅子の様子はどこから見ても、金髪碧眼のアメリカ人を摘み食いするだけの。ただのアバンチュール。
本気など、どこにも感じられない。
「他のライバルの男達を始末する気など欠片も無い」、と思い知らされた。
しかも、カノンコードとか言う危険極まりない仕事に夢中。「こんな女とはサッサと別れよう」、何度も決意してアメリカに帰るのだが。離れていると逢いたくてたまらなくなる。
逢って、食事をして。
それから愛を交わして腕の中で眠る。やがて朝に為ると、キスを残して呆気なく帰っていく梅子。「魔女め」、何度罵ってもやっぱり忘れられない。
ある朝、ついに観念した。
「僕と結婚して欲しい」
どの女にも今まで一度も口にした事がない言葉を梅子に捧げ、大粒のダイヤモンドの指輪を差し出したウイリアム。
目をぱちくりさせ、梅子が大慌てで逃げ出したのは。想定外の大惨事だった。
以来、ずっと追いかけ回し・・
あのカノンコードの為に一億円を都合した見返りに、フィジーで過ごす一週間のクリスマス・バカンスの権利をやっと手に入れたのである。
100万ドルを黙ってその足許に差し出すなんて。とてもじゃないが、正気の沙汰じゃない。
だが、取り敢えず梅子を捕縛。
フィジーで梅子と二人っきりで過ごす、神様がくれたクリスマスプレゼントのような心蕩ける日々を堪能した。
「これで梅子は僕に夢中になる。いよいよ僕だけの天使だ」
日本に帰ってからも。梅子の為に手に入れた都内の屋敷で、二人っきりの熱い時を過ごしたから。ついに手に入れたと確信したのに。
仕事でアメリカに戻り、日本に帰って来てみれば逃げた後。
「わけが分からん」
ますます梅子が欲しくてたまらない、哀れな男が出来上がった。
「ウメコ」、また呻いた。
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