第一話  アラブのお殿様

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 はじめに  何時もの呼び出しが掛かった。  今回のお仕事は、【アラブのお殿様】のお守りだそうで。ご時世がご時世だけに、危険が一杯って感じ。  警視庁警備局警護課の下請け。通称「シークレットサービスのカノン」に依頼が来たのは、秋も深まり出した十月初頭の事だった。  世間様には内緒のお仕事である。  この警護のたらい回しが、どっかの「春」の名前が付く雑誌にでもスッパ抜かれちゃ極めて拙い。  じゃぁ、何故お仕事が来るか?  それは警視庁の警護課に所属するSPの人数には、限りがあるからだ。  政治家先生や政府要人の警護でSPが出払い、外務省などからの新規の依頼には対応できない手一杯の時には、致し方なく外部の警備会社への発注に頼るほかない訳で。  そんな時に警護の依頼を請け負うのが、私達が所属する【警備保障会社カノン】なのである。  とはいうモノの・・  危ない仕事の割に、外務省が支払う報酬は少なく、危険手当などの保証も薄い。  それでも警備保障会社カノンが毎回、涙をのんでこの割に合わないお仕事を受注しなければならないのには、深い理由がある。  警備保障会社カノンとは、警察の退職者やOBの再就職先を確保するために、警察庁が肝いりで設立した会社なのである。その経緯を考えれば断るなどは論外だった。  そこでまた、「とは言うモノの・・」の続きが出る。  交通課や地域課出身の社員の皆さんには、SPの代行仕事は荷が重い。  だからといって適任者の刑事課や保安部出身の皆さんは、ストーカー被害やDV被害のせいで引く手あまた。最近では多忙を極めている。(そのおかげで、警備保障会社カノンは大層儲かっているのだが)  そんな訳で余っているスペシャリストなどは、一人も居ないのが現状だった。  そこでいよいよ、警視庁警備局からの出向組のアタシたちの出番となるわけだ。  私たちは。「カノンコード」と、社内では呼ばれている。ちょっと変わった特殊部隊・・ミタイなものだ。
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