原田洸太

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原田洸太

1  雨上がりの朝は嫌いだ。灰色に映る水たまりが、ペダルから伸びた黒い裾を濡らすから。ただ、雲の隙間から七色が見えたら、ほんの少しだけは良かったと思える。  信号が赤になって気づく。あれだけ熱かった思い出の、存在すらも疑ってしまうような寒さ。やっぱ学ランじゃたんねーわと吐く。  長いことギコッ ギコッ と自分のつくる音だけが聞こえていて、虹を渡るかのように徐々に車の音が大きくなる。でも誰もがその大きな箱に閉じこもっていて、歩道を走るのは自分ひとり。どちらにせよ世界は孤独に見える。なんかそういうの、いやだ。   学校ならそんなことはない。同じ制服が同じように自転車を漕いで校門の先へ吸収されていく。仲間がいるんだと、思う。 「おい、洸太。てめぇライン無視すんなよ」 「はぁ、おまえそーゆーの気にすんの?女子かよ」  後ろから飛んでくる少し掠れてデカすぎる声に俺はすかさず反応する。自転車が並んで、目が合う。タワシのような坊主頭に鋭い目つき、学ランは第二ボタンまで開けている。うるせぇよと言ってチャリに乗ったまま殴りかかってくる雄大を、俺は華麗に避けた。 「はい、じゃあショート始めっぞおー」  担任が、マヌケな声を出しながら入ってくる。全員が起立し、みんなそろって「おはようございます」、着席。東の窓からはいよいよといった感じで、冬らしい暖かい日差しが射している。なんの変哲もない、ごくフツーの景色。俺は勝ち組だ。カーストが1番上だから。もちろん上のやつとしか喋らないし、他の下のヤツらには見向きもしない。自分たちのやりたいようにやりたいことをやれる、そんな人種。  気がつくとホームルームは終わっており、1限目までの10分間を皆思い思いに過ごしている。友達と喋る者、宿題を見せて見せてと頼む者、寝ている者、またはそういうグループの類に入れない集団不適合者。
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