第1話 Prologue 目撃

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 間違いない。  キスしてる。  地学教室の長机の後ろで、俺はパニックになりかけていた。  確認のためにもう一度顔をのぞかせてみようかとそろりと頭を動かしかけ、やっぱり止まる。  衣擦れの音。ん、ん、とかすかに聞こえる女の子の高い声。  完全にキスしてる。それもアメリカ人みたいな濃厚なやつ。  いったい何でこんな現場に居合わせてしまったのか。  俺は頭を抱えた。  昼休み、いつも一緒に飯を食ってる友達が今日は部活の集まりに行ってしまったから、一人で静かに弁当を広げられるところを探して、地学教室にたどりついた。  騒々しい教室内に独りぽつんとしているのは気が引けたから、というのが大きな理由だが、それに加えて、俺は特別な場所に閉じこもるのが好きだった。秘密基地ってのはやっぱり男のロマン。他の誰も知らない俺だけの隠れ家を見つけて、人混みの中で疲れたときはそこで精神を休めよう、なんて、そんなことをよく企んでいた。今日はせっかくだから、その計画を実行してやろうと思い立ったのだった。
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