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どうやら二人は俺よりも先にこの教室を密会の場にしていたらしい。
そのうちに話し声がぴたりとやんだから、出て行ったのかと思って机の陰からのぞいてみれば、二人があつあつのキッスを交わしていたわけである。
走馬燈のようにそんな記憶を頭にイメージしているうちに、チャイムが鳴った。
五分後には授業だ。教室に戻らないと。昼飯の後の古文は昼寝の時間になること必至だ。でも今日の日付はよくない、出席番号順であてられてしまうかも――
「行かなきゃね」
今の状況から目をそらしてつまらないことを考えていたのに、その声で引き戻される。そして、見間違いかもしれない、別人かもしれない、なんて心の片隅に抱いていた希望もほぼ潰えた。
聞き覚えのある声。間違いなく、俺の知っている女子だ。
さっき一瞬だけ見た後ろ姿でもわかっていた。彼女はいつも、黒くて細いリボンにキラキラのビーズのついたバレッタをしている。数学のクラスで後ろの席の俺は、退屈になると彼女の髪の結び方を分析して気を紛らわせていた。だから、彼女の後頭部はよく見慣れている。
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