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今日も風は丘の上に吹き荒れる。その中に独り立って、静かに町を見下ろしていた。
──あの中に、風呼びの墓があるのだろうか。
無意識にそんな事を考えていた。
風呼びとは文字通り風を呼ぶ神子指す。
先代の風呼びは謎多き人だった。ふらっと町に出てきては『ふぐふく』という菓子を買って食べてお付きに怒られていたり、はたまた学舎に招かれて話をして学長に礼を言われていたり。そんな風に見る度会う度、印象の変わる人だった。
その人は今、居ない。先月流行った流行り病に侵され、町の人を救う風を呼び息絶えた。
結局流行り病で死んだのは彼だけだった。町の人たちの病を彼が呼んだ風が奪い運び去ったお陰だった。
暗き棺の中で静かに眠る彼を見て、思っていた。
──彼は、生きていて楽しかったのだろうか。
見る度見る度、彼は人の事を優先していた様に思う。
自分のために買ったはずの『ふぐふく』を泣いてる子供に全てあげてしまったり、気晴らしに来たはずの場所で人の為に風を呼び、手助けをしたり。
その度、彼はほんの一瞬だけ、きゅっと眉を寄せて悲しそうな顔をしている事に数度そういう場面を見て気づく様になった。
そんな顔を見る度に、『なぜ』と思った。
だから生前彼に『学び』を支持した時、聞いてみた。
彼はその質問に困った様に笑って、言った。
『僕は…──なんだよ』
彼の言葉はざぁぁっと揺れる木々の音に消され聞こえなかった。
『なんて?』と聞き返せば彼は笑って『さぁね』と誤魔化してしまった。
結局あの時彼がなんと言ったのかは分からない。だってもう、彼は居ないから。
「ウィンディ!」
僕を呼ぶ声がする。行かなければ。
彼があの時言った言葉は分からない。
けれど、いつか。きっと、いつか。
自分にも分かる日が来るだろう。彼の口癖が移ったように呟いた。
「『縁の巡り合わせを待とう』」
呟く時、風に乗った彼の声が聞こえた気がして空を見上げてみたが、当然そこに彼は居ない。
──彼はきっと、見守っているだろう。僕の事も、皆の事も。
彼に恥じない様な風呼びになろう。
そう決心して僕は風の吹く丘を後にし、呼ぶ声の方へ向かった。
──僕の役目を果たすために。
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