骨細工師

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「生きたまま身を捧げるのは名誉なこと、なんて言いますが。なあに、話半分ですよ」  気まぐれに与えられる賜りものを期待して、毎年身代わりの奴隷を差し出しているのだと。司祭が気に入った娘を召し上げる方便に、ツァトゥグアの信託にかこつけることもあると小声でこぼす。 『怠惰な神の威を借りて、色と欲の現世利益三昧ってわけ? あー、やだやだ』  亭主の言葉に、この街の賑わいも虚飾に満ちたものと思い知らされた。ぼやく雛神様だったが、市場に並ぶ原色の織布や瑞々しい果実を眺めるうち、気が晴れたらしい。雛神様の気の向くままに眺め歩くうち、細い路地の奥に、粗末なローブをまとう、やせ細った老人の姿を見付けた。くたびれた敷布に座り、手元には骨がばら撒かれている。 『占い師? 物乞いかしら?』 「骨細工師じゃよ」  フードの奥からしわがれた声で呟く老人は、ウヴァルと名乗った。節くれだった骨だけのような指で、器用に散らばる骨を組み上げる。  仕上がったのは蜥蜴のようにも、鳥のようにも見える異形の骨格。それは生きているかの様に敷布の上を跳ね回り、老人の手に載った。 『へえ。魔術と言うにはしょぼいけど、芸としては面白いわね』  雛神様の歓心の礼にと、銀貨を数枚投げ与えた。老人は皮肉っぽく口元を歪めると、懐から小石を取り出した。 「見世物でもないのだがの。釣りじゃ、持って行け」  黒い小石には、歪んだ五芒星が刻んである。護符の類だろうか。  銀貨を懐にしまうと、俺に興味を無くしたらしい老人は、俯きフードに顔を埋めた。骨細工は老人の手から飛び降り、敷布の上で崩れ散らばった。
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