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「ここには二十の金庫室が設けられています。そのうちの一つ、十三番金庫の中にいる魔物を排除して頂きたいのです」
『呆れた。あんたの所は魔物まで預かるの?』
「まさか」
『それじゃあ入り込まれたってわけ?』
「それもまさかです。たった今見て頂いたように、警備は厳重です。高位の魔術師による護りまで掛けられた場所です」
ですが、と眉を顰めるメルフィナ。
「お金だけではなく、その魔術に関わる貴重な品を預かることもあります。危険な品はお断りしておりますが、預け人様にだます意図はなくとも、知らず我々が持て余すような品が紛れ込むこともあるかと」
ランタンで照らされた十三番目の扉。鉄製のそれにも厳重に鍵が掛けられている。
「神殿からの預かり物も納められています。信用に関わりますので、できれば内密にことを処理したいのです」
なるほど。俺の口からは教団に漏れるはずはない。ギルドにとっては打って付けの人選という訳だ。
メルフィナからランタンを受け取り中を照らす。思ったより広い。木製の棚が何列か並んでいる。床に金貨がばら撒かれているが、明かりの届く範囲には、魔物らしきものの姿は見当たらない。
「大変不躾ではありますがアイン様。中の物は全て預かり物ですので、可能な限り配慮頂ければ幸いです」
思わず苦笑が漏れる。剣しか扱えない傭兵相手には無理な相談だ。
魔物の手によるものか、棚は荒らされている。足元に散らばる金貨や宝石を踏みながら、順に棚を照らしてゆく。最後の棚の奥を覗いた時、その姿を見付けた。
ランタンの灯りに照らされ煌めくそれは、金色に輝き、大雑把に人の姿をしていた。
『金貨で作った人形? 魔術仕掛けの玩具かしら?』
のろのろと歩み寄るそれに脅威は感じない。だが、斬り殺せるものなのか?
手にしているのはアラバードから奪った骨剣。神気を帯びたそれなら力押しで倒せるかと構えた俺に、戸口から覗くメルフィナが声を掛ける。
「くれぐれもご配慮を――」
気勢を削がれ踏み込みが遅れる。振り下ろされる腕をかわし棚の影へ。
金貨の人形は棚を押し倒し、俺を圧し潰さんと試みる。
「貴重な品もございますので!!」
『アイン! 何遊んでんのよ!?』
棚の残骸から這い出し構え直す。視界の端に、割れたランタンから棚に火が燃え移るのが見えた。
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