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「アイン様!? ちょ、ほんと困ります!! 水を! 誰か水を!!」
俺のせいかなの?
慌てるメルフィナに構わず、剣を構え金貨の人形を観察する。身体を形作るのは金貨ばかりではなく、幾つか目立つ宝石も混ざっている。
『右手に付いてるの、何かの護符ね』
寄り集まった金貨に埋もれるように、碧の石が見えた。
再び振り下ろされる腕をかわしながら、人形の右手を斬り飛ばすように剣を跳ね上げる。
碧石の護符が壊れると同時に金貨の塊は崩れ去り、中からは干からびた死体がその身を露わにした。
『あら? 首からも護符を下げてるわ』
なおも俺に掴み掛かろうとする屍人も、胸元の紅玉の護符を突き砕くと動きを止め、床に崩れ落ちた。大きく開いた口から金貨が零れ落ちる。膨らんだ腹にも詰め込んでいるのだろう。
『で、結局ぜんぶ護符のせいだったってわけ?』
地下の金庫室には、ツァトゥグァ神殿の魔術師が特に念入りに魔術を仕掛けていた。宝を奪った者を死に追いやる呪い。魔物と思われていた、賊が首から下げていた紅玉は、長命の護符。金庫室に掛けられた呪いを知って、対策として用意した物だろう。
「手にしていたのはツァトゥグァの賜り物である、財を得る護符ですね。強力ですが身を滅ぼしかねない、あまり性質の良い物ではなかったようで……」
つまり賊は、死の呪いを受けながら、身を滅ぼすほどの財を得、死ぬこともできずに金庫の中に閉じ込められていたということらしい。皮肉でしかないが、全ての護符は効果を発揮し、賊の望みは叶っている。
「十三番金庫の修繕費はやむなしとして、アインさんが破損した護符は報酬から減額させて頂きます」
『ちょっと! アレを始末しろって頼んだのはあんたでしょ!?』
「でしたら、経費として申請頂ければ、審査の後補填させて頂きます。これも決まりごとですので」
メルフィナは涼しい顔で書類の束を用意する。
賊があの姿になり果てた理由は分かったが、警備の厳重な地下金庫に忍び込んだ方法の方は不明なままだ。神殿か金融ギルドの関係者としか思えないのだが――
「その件は我々が処理しますので、詮索も他言も無用に願います。何事も信用が第一ですので」
口元で人差し指を立てると、メルフィナは片目を瞑って見せた。
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