イホウンデーの戦巫女

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 矢をかわしながらでは、木立ちを小鹿のように掛ける女との距離を詰めることも適わない。  三本目の矢を払い落とした俺は、少し開けた場所の手前で足を止めた。 『何してんのアイン、逃げられるわよ! 茂みに紛れ込まれたらいい的じゃない!』 「……へぇ」  女もそのまま立ち止まり、興味深げな声を上げる。  油断なく剣を構えた俺に、小首を傾げ問い掛けた。 「どうして分かったの?」  引き離すつもりにしては、俺がたいして苦労せず駆けられるルートを選んでいる。  その気になれば小柄な身体を生かし、早々に木立に溶け込むこともできたはず。  腕を見るため剣を振るわせるつもりだったなら、そもそも逃げる必要はない。 『ここに誘き寄せられてたってこと?』 「そこそこ使えるみたいだね。わたしはエゼリカ。イホウンデー様の戦巫女――ッ!?」  ほほ笑みながら歩み寄るエゼリカの姿が、悲鳴を残し視界から消えた。 「……そう、この吊り上げ罠に気付くくらい目端が利けば、雇うだけの価値はあるかな」 『ヘラジカの女神の徒か。こんな所まで版図を広げるとは生意気ね』  戦巫女はさかしまのまま、尊大に俺を値踏みして見せた。  しかし、どうしてこいつは自分の仕掛けた罠に掛かって見せたんだろう。 「それじゃあ最初の仕事だよ。とりあえず下ろしてくれるかな」  どうやら俺を雇うことに決めたらしい。  困惑の表情を浮かべる俺に、エゼリカは雇い主としての威厳を保ちつつ、頭上から指示を下して見せた。
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