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「エゼリカが捧げた身体を、イホウンデー様が受け取られたのじゃ」
白い髭をたくわえた、イホウンデーの老司祭が呟いた。
『へえ。ヘラジカの女神も人身御供を要求するの?』
「勘違いせんで欲しい。我々はツァトゥグァあたりの邪教とは違う。戦巫女として立派に鍛え上げたからこそ、イホウンデー様の分身となれたのじゃ。エゼリカの魂は今は女神と共にある」
『魂を喰らうのも同じでしょ? 血肉を魂ごと喰らうまどろむ怠惰なるものと、そう変わらないじゃない』
エゼリカだったものが俺に目を向けた。
横長の瞳孔を持つ鹿の瞳が俺を映す。
『アイン、剣を合わせてみないの? さっきより段違いに強くなってるみたいだけど』
エゼリカと、一度全力で手合わせしてみたかったのは事実だ。だが、今のあれが見せるのは、人として鍛え上げたエゼリカの強さではない。
新たに生まれた木立を駆けるものは、立ち尽くす俺を残し、ゆっくりと森の闇に溶け去った。
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