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猫をお使いに送り出してしばらくしたころ、犬の携帯電話が着信音をたてた。表示された相手を確認し、電話をとる。
『葬儀屋です』
「はい、お世話になってます。犬です」
普段から無機質な葬儀屋の声は、電話を通すと機械かと紛うほどになる。犬は昨日の猫との会話を思い出し、口もとだけで笑った。
「昨日の依頼の件でしょうか?」
『はい。遺体を引き渡した火葬組織から、問題なく火葬が終わったと連絡がありました。そのご報告を』
「ありがとうございました。料金はいつも通り月末締めで」
『恐れ入ります』
「いえ、こちらこそ。それじゃあ、次もよろしくお願いします」
通話終了のボタンに乗せた指が、ふと動きを止めた。
「あ……すいません。ひとつお聞きしても構いませんか」
『はい』
尋ねた犬に、葬儀屋は短い了承を返す。
「大したことではないんですが……、僕と猫が殺した八人の野良さん、そちらで遺体を確認していただいたとき、何か気づいたこととかはありませんでしたか?」
しばらくの沈黙の後、葬儀屋は再び短く返す。
『いえ、特には』
「そうですか。変なことお聞きしてすいませんでした」
こんな漠然とした質問に考えて応答してくれただけで十分だ。犬は丁重に礼を述べた。葬儀屋が問い返す。
『こちらのご遺体の扱いに関連することであれば、ご意見をお聞きしたいのですが』
「あ、違います違います。そちらの仕事に不満があるとか、そういった苦情の類ではないんです」
慌てて説明し、犬は携帯電話を持ち直した。ひとつ息をつくと、彼の黒い瞳が遠いどこかを眺めた。
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