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相合傘の中
ぼしょぼしょ降りの雨は、おさまりかけていたのに、また急に勢いを強くした。
濃い夕焼けが漂っていた校庭は、いきなり黒い雲がもさもさと寄ってきたせいで、陰気に薄暗く陰ってしまった。
ざーざー本降りの中、ずぶ濡れで帰るのは、とても嫌だった。
(マキノに知られなければいい)
と、わたしは一瞬で気持ちに蓋をして、差し出された手を素直に受け取ることにしたのだった。
クラスの男子が見たら、絶対に冷やかすだろう。
なにしろ、相合傘だからな。
背の高い山上君は、ゆっくりと歩いてくれる。明らかに速度をわたしに合わせてくれている。
クラスでもチビのほうのわたしは、ちょこまかと一生懸命に歩かねばならないのだが、山上君は淡々と、慌てたら転ぶよ、と言っただけだった。
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細い道から大きい道に出る白線でいったん止まる。
小さい信号機があって、ちょうど赤だった。なかなか青にならない信号なんだ。
目の前を、軽トラが水しぶきをあげながら走っていった。他には誰もいない。
「キミサキさんの傘はオレンジ色で、縁がちょっと破れている」
ぼそっと山上君は言った。こっちを見ずに喋っている。
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