山上君のことを好きにならないなら

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 マキノが、わんわん煩い鳴き声を聞いて、じっとしていることなどできないだろうと読んでいた。その読みは当たって、ボロアパートの前を三往復くらいしたところで、ぶすっとしたマキノがサンダル履きで出てきたのだった。  アパートの塀のところで、猛犬太郎を挟んで座った。  お尻の下で、アスファルトがひんやりしている。  マキノはブカブカのTシャツに、真っ白くて細い太腿が丸出しの、ひどく短い白いショートパンツをはいて、ピンクのビーチサンダルを付けている。小学校6年生なのに、マキノは大人っぽい。  お化粧をしているような赤い唇をツンと突き出して、マキノは開口一番、そう言ったのだった。  「山上君」  もしかして、クラスの秀才の、あのやせっぽちな彼のことか。  確かに彼はわたしの隣の席だけど、マキノは一体何を言っているんだと少し考えた。そして、分かった。  あまりにも不釣り合いで意外だけど、マキノは山上君が好きになってしまったらしい。  「いつからよ」  と、聞いてみたら、いきなり恥じらい始めて、長いまつげを伏せた。じれじれと両手の親指を弄びながら、ぽつんと先週の火曜日の算数の時間から、とやけに具体的な返事がかえってくる。  「わたしその日、当番だったのに、宿題忘れてたのね。そしたら、山上君が、そっと自分のノート渡してくれて、これを使ったらいいよって言ってくれたの」     
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