残りもの

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 雪が積もった中、段ボールの周りだけめちゃくちゃに踏み荒らされて、冷たい土が見えている。  まだ中になんかいるなと思って覗くと、びっくりするほど汚くてかわいくない仔犬が、目ヤニがいっぱいついた目を上に向けて、きゅうきゅう泣いているのだった。  あんなにわらわら子供が集まって、奪い合うようにして仔犬を取り上げていたのに、こいつだけが取り残されている。  「きゅーん」  と、小汚い犬は鼻を鳴らした。本当に汚くて、匂いも酷かったが、わたしは見捨てておけなかった。  あとでママから、コートが臭くなったじゃないのと雷を落とされたのだけど、サラダ油の袋をひじにかけ、雪に濡れた犬を抱っこして、えっさよいさとうちまで帰ったのである。  それが、今の猛犬太郎だ。  恩を忘れたかのように、ドッグフードをえり好みするし、もりもり体格以上に食べるし、散歩をしたらすごい勢いで走りまくる。郵便屋さんにはわんわん吠える。  (幸いなことに、人を噛むことはしない……)  噛んだら最後、鬼のママの目が、地獄の使者のように冷たく光るだろう。  だからわたしは、ことあるごとに、ハッハハッハ舌を垂れる猛犬太郎の耳元で、「お前の命はママの気分次第なんだから、絶対にあの人の気分を害することはするなよ」と言い聞かせているのだった。     
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