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ベランダの男
近所のアパートのベランダに、いつもしゃがんでいる男がいる。
いつ見てもいるからきっと住人なのだろう。でもいつ見てもいるから、普段何をしている人なのかは判らない。
柵を握り、ひたすらじっと通りを行く人達を見ている。
もしかしたら、少しおかしな人かもしれない。関わらない方がよさそうだからそちらを見ないようにしよう。
そう思っていたのだけれど、ある日の仕事帰り、その人と思いきり目が合った。
おいでおいでと手招きをする仕草に逆らえず、アパートの方へと足を向ける。でも建物近くに差しかかった瞬間、とんでもなく嫌な予感がし、俺はギリギリの位置で足を止めた。
男はそれでも俺に向かって、何を言う訳でもなくずっとおいでおいでを続けている。
逃げたら物を投げられそうだな。でもどうしても近づきたくない。
ためらいながら、もう少し様子を見てみようと、俺は近づくフリでその場で足踏みをした。
巨大な風切り音が、鼻先をかすめて上から下へ沸き起こったのはその直後だった。
しばらくは何が起きたのか判らなかったけれど、周りにわらわらと寄ってきて、大丈夫ですかと声をかけられた時、俺はやっと目の前で何が起きたのかを悟った。
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