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届け。
いつの間にか、俺もそう願っていた。タケルはしゃぼん玉キットを胸の位置で、大切に大切に握りしめている。
「負けんな! しゃぼん玉、負けんな!」
届け、届け、届け。
タケルの声と一緒に、俺も心の中で叫ぶ。
けれども無情にも、しゃぼん玉は一つ、また一つと割れて消えていく。パチリパチリと、あちこちで割れる音が聞こえるようだった。
「なんでぇ? なんで消えてしまうん? しゃぼん玉、おばあちゃんのところまで行かん……」
徐々に弱々しくなっていく、タケルの声。とうとう空には、一つのしゃぼん玉もなくなってしまった。
しゃぼん玉は全部消えてしまったのだ。秋の空に、あの美しい水色に消えていった。
タケルはじっと、空を見ていた。その小さな背中は、とても寂しそうだった。
立ち尽くすタケルに寄り添うように、そっと隣に立つ。気の利いた言葉なんか思いつかないが、俺は思ったことを口にした。
「タケル……しゃぼん玉、おばあちゃんに届いたよ」
その言葉に、タケルが驚きこっちを見た。
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