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「わ、悪かった。兄ちゃんが悪かった。だから泣くなって……」
宥めようと肩に置いた俺の手を振り切って、タケルが急に走り出した。屋根のない所まで出ると、ポケットをゴソゴソとまさぐった。
「勝手に飛び出したらいかんって──」
追いついて腕を掴むと、その手に何か握られていた。よく見るとそれは、タケルがいつも遊んでいたしゃぼん玉のキットだった。
「タケル……なんでこんな物持ってきたん? 遊ぶ場所じゃないって言ったやろ」
タケルはしゃくりあげながら、俺の言葉を無視するかのように、専用のストローをしゃぼん液にひたした。そしてそれを空に掲げると、ゆっくりと力強く息を吹いた。
ぷかぷか、ふわり。
大小様々なしゃぼん玉が、風に吹かれて飛んでいく。七色にキラキラ輝いて、秋の空を彩っていく。ゆらゆらと、導かれるように昇っていく。
呆気に取られてそのままぼんやり見ていたら、気づいた時には辺り一面しゃぼん玉だらけになっていた。
「タケル……!」
騒ぎに気づいた母が、タケルの元へ駆け寄った。
「あんた何してんの! 遊ぶ所じゃないよ」
しかしタケルはそんなのお構い無しで、吹くのをやめようとはしない。母がやっとの事で口からストローを離すと、 涙を目一杯に溜め込みながら、周りを睨んだ。
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