Ⅰ ~美帆子side~

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『フローリスト・(みやび)』は洒落た通りを 一本脇道に出た一角にある。 花屋にしては大きく、 そしてガラス張りの店内を見る限り一見花屋には見えない。 まるでインテリアショップのように いくつものルームコーディネートがところどころに作られているからだ。 シックなデザインでまとめられたものから 和室をイメージされているものまで。 テーブルひとつ取っても 木目調、モノクロ、カラー、さらにガラス製なども。 どのお宅でもイメージが湧くよう工夫されていて 客はそれを参考に見合った花を買っていく。 一歩店に入るとすぐに花の匂いがする。 でも花屋独特の湿った土の匂いや、栄養剤の匂い、 水っぽい青臭さは一切せず まるで花好きのお宅にお邪魔したような感覚になる。 「あの 秋の花を家に飾りたくて」 いらっしゃいませと声をかけてきた女性店員に 軽く会釈をする。 すると そうですね~、と 奥に飾られているガラステーブルに案内してくれた。 「ご自宅はガラステーブルですよね。 ですと、今の季節はマムなんか綺麗ですよ」 初めて来店した際から ガラステーブルだと伝えた事を店側は覚えてくれている。 彼女が優しくテーブルに置いた丁度いいサイズの花かごには白色や薄い黄色などの爽やかなマムがあしらわれていた。 品があって、可愛らしい。 マムとは『菊』の事。 菊と言われるとどうしても仏花のイメージが強く 避けられてしまうが、 輪菊とは違い豊富な色を持つ『マム』は ギフトなどでも人気なのだそう。
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