Ⅰ ~美帆子side~

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* 「また不倫の話か」 朝、テレビの前でネクタイを締めながら 夫の佐々木(ささき) 正成(まさなり)が笑った。 今朝の芸能ニュースは不倫報道で盛り上がっているよう。 人の事言えないくせに。 広々としたオープンキッチンに立つ私は 心の中でそう言いながらコーヒーを落とす。 「コーヒー、いる?」 正成が あぁ と振り向く。 「そこ置いといてくれ」 機嫌よく振り返る正成ももう今年37歳。 私はその2つ下で35歳。 子供がいないというのもあって、2人共 若く見られたりするが 私からしたら結婚して7年経つともう お互い若くないなと思う瞬間が増えた。 ゆらゆらと湯気が立つコーヒーから 上品な香りが鼻をくすぐる。 結婚してからインスタントは飲まなくなった。 それに限らずこの家にインスタントの物や 安っぽいものは無い。 育ちのいい正成の口には合わないのだ。 落としたてのコーヒーをあらかじめ 温めておいたカップに注ぎいれ ガラス製のダイニングテーブルまで運ぶ。 ソーサーごとテーブルへ置くと 吹き抜けた天井高い位置にある天窓からの朝日が コーヒーの表面を照らした。 「場所は遠いの?」 「あぁ。帰りは明後日の夜かな」 私は正成にグレーのスーツジャケットを羽織らせてやる。 正成は身長が高く、スタイルも出会った時と ほとんど変わりがない。
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