Ⅰ ~美帆子side~

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「もう すっかり秋の匂いがしますね」 大きく息を吸う彼に思わず 分かる?と肩を弾ませた。 「するよね、秋の匂い。 なんかこう...運動会みたいな感じ」 「運動会...あぁ笑 たしかにそうですね」 彼は分かります分かりますと 笑って何度も頷く。 素直に嬉しかった。 初めて認められたと感じたのだ。 一度も正成には分かってもらえなかった こんな些細な事のひとつだけれど。 いや、私からしたら『こんな些細な事』 なんかではないのだ。 働いてた頃に比べて人との関わりが薄くなってしまった今、一番近しい会話をするのが正成。 その正成が共感してくれないということは時に辛く感じる。 おまけに事が小さければ小さいほど、虚しい。 「...、美帆子さん?」 「うん?」 ふと我に返りゆっくり足を止めた彼を見上げると 同時にさらりと彼の手が私の左頬を拭った。
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