Ⅱ ~ショウside~

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ギュッと革素材独特の音が鳴る。 杏香さんがすらっとした足を組んだのだ。 それから白い封筒をひらひらと数秒眺め 「相手の女性、随分と品があったようね」 と杏香さんは言った。 「あ、まぁ。...どうしてそれが?」 そう訊ねると杏香さんは形の整った瞳で じっと僕を見つめた。 どうしてだと思う?とでも言いたげな視線に 首を傾げると 「人が他人に初めて渡す物って一番個性が出るのよ。 ただの封筒に入ったお金だけでもね」 とワンレンボブの黒髪をかきあげて、 こっちへ来いと人差し指で招いた。 言われるがまま杏香さんの前に立つ。 杏香さんは一万円札の端と端を両手で摘み ふっと息を吹きかけた。 「見て お札に折り目がひとつもない。 これが普通って思うかもしれないけど ただの大学生に些細な手間をかける人って いそうであんまりいないのよ」 そう言って封筒からもう一枚お札を抜き取り 合計二万円を僕に差し出してきた。 でも受け取ろうと手を伸ばしたら すっと避けられてしまった。 かちりと視線が合う。 「ねぇ もしかしてその人に惚れたの。 彼女がどんな人か知らないけど」 予想外過ぎる発言に 僕は えっ と視線を離せぬまま固まった。 瞬時に体が火照り、どくんと心臓の奥が鳴る。 その事に自分でも驚いた。
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