Ⅰ ~美帆子side~

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「じゃ、行ってくるよ」 汚れひとつ無い革靴を履いた正成は しっかりとこちらを見て言い 大きな玄関の扉を開け出ていった。 重みのある玄関扉が閉まる。 ふう、と息を吐き しんと静まり返った広めの廊下を 肌触りの良すぎるルームシューズで歩く。 テレビが付いたままのリビングに近づくと さっきまでのワイドショーの音が聞こえてきた。 まだ不倫報道の話題でコメンテーターが それについて分かりきったような事を口にしている。 私は 芸能人って可哀想 とひとりでに呟いてからテレビを消した。 広すぎるリビングは一層静かになる。 可哀想と言っても不倫をした当の本人じゃない。 知っていても黙っていれば済んでいた事を 赤の他人にバラされた事で面倒になってしまっている妻の方がだ。 正成に他の女性がいるのを知ったのは3年も前。 きっと1人ではないと思う。 ずっと女の影がある事は間違いない。 でも別れようと考えた事は一度もなかった。 人間は慣れる。 慣れてしまえば夫一人のわがままくらい 受け入れられるようになっていくのだ。
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