Ⅱ ~ショウside~

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美帆子さんの時もそうするつもりだった。 初めて指名されたから、万人受けをする対応を "ショウ"としてこなすつもりでいた。 しかし、彼女を一目見て吸いこまれた。 今までの女性とは全く違う風貌。 取り囲む雰囲気に気品が溢れていてこちらが戸惑った。 そのせいか、僕の対応は満点ではなかったかもしれない。 ふと仕事だというのを忘れていた瞬間があったのだ。 純粋に彼女の事が気になった。 "ショウ"としてではなく何も被っていない"翔"として気になってしまったような気がする。 あの時...、花屋に向かっている途中、 美帆子さんは少し泣いていた。 いや泣いていたというより勝手に流れてしまっていたといった方が正しいほど自然で、彼女自身それに気付いていなそうだった。 横から盗み見たその瞳は 急に寂しげで、隣にいるはずが少し遠のいて見えた。 気付いたら彼女の頬に触れていた。 何秒もない、ただ拭うように一瞬。 基本、こちらからお客に触れる事は 要望をされない限り良くないとされている。 でもそんな事は考えていなかった。 美帆子さんは驚いたような顔で僕を見たが、 僕は触れた事に後悔はしていなかった。 頬を僅かに濡らしていた彼女を 放っておくなんて出来なかった。 いや、ハンカチでも差し出せばよかった。 でもそんな安い扱いは出来なかった。 寂しげに正面を向く彼女に 今そばにいるのは僕だ、一人じゃないと 肌で伝えたかったのだ。
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