Ⅱ ~ショウside~

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「ここは行きつけなんですか?」 僕がテリーヌにナイフを入れるのは これが初めてかもしれなかった。 口に入れると、野菜の旨みを閉じ込めたであろうゼリーが広がる。 思わず わ と感動のため息に似た声が出た。 美帆子さんはそんな僕を見て微笑んでから、 うん と質問に答えた。 「でもいつもじゃないよ。ちょっと特別な時とか」 「......結婚記念日、とかですか」 つい頭によぎった事が言葉となって 外に出てしまい、あとになって焦る。 しかし美帆子さんは穏やかに少し笑い、 そうだなぁ とワイングラスに入った水を一口飲んだ。 「結婚したての頃はそうだったかな。 ここに来るのは主人とだけって決めてた時期もあったかもしれない」 そう言っている彼女の視線が一瞬かげったのを 僕は見逃さなかった。
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