Ⅲ ~美帆子side~

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* 目の前にはグツグツと音を立てる ビーフシチューの鍋があった。 ゆっくりとかき混ぜれば 照りがキッチンのライトに反射する。 これは正成の好物だった。 若い男と会ってきた夜に夫の好物を作るだなんて 私はいつからこんな女になってしまったのだろう。 やはり今日はどこかおかしいのだ。 オープンキッチンから誰もいないリビングを見渡し、そう思った。 私は出したままの赤ワインに気づき そっと手に取って冷蔵庫へ戻す。 パタリと閉まる冷蔵庫のドアの音が 自分の鼓動と重なり、一瞬胸が浮き上がった。 驚いた と思った。 今日のショウくんは、何だか違って見えた。 私の記憶は、今日のお昼に遡っていく。
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