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でも、わたしはそこまでしても、きみが好きな男には敵わない。その男がどんなに貧乏でルビーもドレスも買ってあげられなくても。
だから、ひとつ聞きたいことがあるの。
どうしたら、なにをしたらきみはわたしを特別にしてくれるの。
答えなんて、泣いたフリをしているきみを見ても教えてくれない。
答え合わせなんていらないんだ。だって、わたしは分かりきってるから。1+1=2みたいに、最初から知ってるから。
わたしはぎゅっと唇を噛んだ。
血が出ているのに気づいたのは口の中にその味が広がったから。
飴みたいに甘くない、鉄の味。
「嘘だよ、ほんとに泣いてると思った? 」
「思ってないよ。このダイコン役者」
わたしはきみの柔らかなほっぺたを両手でつまんだ。
きみは、痛い痛いと大袈裟に言って笑った。
わたしも切れた唇に気づかれないように血を舐めてから、笑った。
きっと、何かを隠すように笑ってるんだ。
きみも。わたしも。お互いに。
でも触れられたくないことをお互いに持ってるから、お互いに相手のそれには触れない。
だからお互いに気持ちが良くて一緒にいるんだ。
ここは、砂漠の中のオアシス。
この下に無限に広がるアスファルトも何十億人と在る人も乾きすぎて、時にそれは衝突してきて、わたしたちの皮膚はめくられて傷ついてしまう。
きみが飴を口に入れたから、沈黙が続く。
ルビーに見えなかった、キャンディー。
でも、ほんとうはわたしは…。
夕日と反対側の方角を見渡すと、広がるビル群に少しづつあかりが灯る。ひとつ。またひとつ。
きっとこのあかりの中には、仕事をしているサラリーマンたち、晩御飯を作るお母さんたちがいるんだろう。
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