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①
棒付きキャンディーをきみは口から出すと、ぴぃっとひかる糸が引いた。
きみは あ、と言って腕を伸ばすとその糸は次第に細くなって、肩と手首が平行になった頃には何処かで切れて無くなった。
「この糸みたいにわたしとあいつの関係は切れて無くなっちゃった。」
となりできみは笑った。その泣き腫らした目が痛々しくてとても可哀想だった。高校三年間、ずっと同じ人に片思いをしていたきみ。夏休み前に、勇気を振り絞って告白をしてやっと付き合えたのに、幸せはそう長くは続かなかった。
高校生活をかけた大恋愛。
"つらかったね" "また新しい出会いがあるよ" 違う。どんな言葉もきみにとっては薄く表面的に聴こえてしまうような気がして、なんの言葉もかけられなかった。
だからわたしは、ずっときみに新しい棒付きキャンディーを渡す事しかしていない。
飴の無くなった棒をちり紙にくるんで、新しいキャンディーを渡す。それだけがわたしにできる唯一の事のように思えた。
でもね、それはいい訳。
本当は言いたい言葉が喉まで来てて、それが出ないようにずっと口を閉じている。
そう、こんな言葉。
"わたしだったらきみを泣かせません。好きです。"
ね、気持ち悪いでしょ?
女の子は男の子を好きにならなきゃいけない。
そう思っている人達、そんなルールに縛られている人達からしたら可笑しいって思うかもしれない。
でも、至ってわたしは真剣だ。
きみがあいつを思うようにわたしはきみを思っている。きみより、もっと。
だけど現実はこの棒付きキャンディーみたいに甘くは無くて、わたしはこの気持ちを今も隠し続けている。理由は一つ。先述した通りルールから外れているから?"じゃない。
"きみが普通の女子高生だから。"
わたしを友達という枠に入れてくれたきみを困らせたくなかったし、わたしの一方的な気持ちのせいで友達という枠にすら入れなくなるのが怖かったし、嫌だから。きみと普通に話せなくなる日々なんて死んだ方がマシなんだ。
「ねぇ、見て。」
きみはわたしが新しく手渡したキャンディーを口に入れなかった。さっきみたいに、ぴんと腕を伸ばすと、夕日と飴の部分が重なった。
午後4時30分の廃ビルの屋上は夕日と同じ高さになって、きみが水平に伸ばして掲げた飴はきっちり太陽を収めた。
「おっきなルビーみたいだね」
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