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でも、この廃ビルの屋上に居るとそんな事は実感出来なくて…。この世界に、わたしときみだけが取り残されてしまったように感じてしまう。
本当にそうだったらいいのに。
きみがこれから好きになるだろう男なんて居なくなってしまえばいい。
きみの幸せを心から願えないわたしは心底最低だ。だから、そんな後ろめたさからきみの顔が見れなくてずっと夕日に背を向けていた。
「飴。もうひとつ」
気づくときみはわたしの前に立って手を出していた。ビー玉のように丸くてぱっちりした目に見つめられると、こころが駆け足になる。艶々でゆるく巻いたきみの髪の毛に思わず手が伸びそうだ。
あぁ、わたしは男の子だったら良かったのに。
きみが人生の中で出会う一番、素敵な男の子。そうだったら、きみをどうともできるのに。
きみに触れてみたいと思った手にキャンディーを持たせて、"好き"と言いたいお口は代わりに"まだ食べるの、"という音を発して、きみの前にわたしは存在する。
「あんた、血が出てるよ」
きみはわたしの顔を覗き込んだ。
「どうって事ないよ。」
切れた傷口からわたしの気持ちを悟られてしまうような気がして、顔をそむけた。
「リップ塗ってあげるよ」
きみは制服のポケットからルージュを取り出した。わたしが誕生日にあげたもの、使ってくれてたんだ。ちょっと嬉しくてつぐんでいた唇が緩む。
「流石にルージュは荒れた唇によくないね。
やっぱごめん。自分に塗る」
「あんたが塗るのかよ。」
わたしが突っ込んだのも気にせず、飴の無くなった棒を投げ捨てると、手鏡を片手に右の下唇からゆっくり、色をのせていく。
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