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「店主、私ももう、成人を迎え、嬢ちゃんと呼ばれるような年齢でもないので…」
「俺にとっちゃ、いつまでも嬢ちゃんだよ。んで、俺の自慢の可愛い娘だ」
「店主はいつも優しい。ありがとう…感謝する…でも、私を娘と思ってくれるなら、そろそろ名前を…」
「契約違反したら、呪われちまうからな。嬢ちゃんの名前は聞かねぇよ。俺が死ぬときは、契約違反した時だと思ってくれ」
とある喫茶店の店主が、痛み請負人の記念すべき依頼主第一号であった。交通事故で妻と娘を亡くした痛みを取り除く、そういう契約だった。
本当は診断書のコピーを見たときにわかっていた。彼女の名前を知っていた。それでも店主は、知らないふりを十数年続けているのだ。
忘れるわけがないのだ。苗字は別として、名前が亡くした娘と同じだったのだから。
痛み請負人の本名は、伊丹美咲。本名が彼女の口から出るのはいつになることやら。
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