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『嵯峨野先輩。好きです、付き合って下さい』
10回以上はあったであろう、その申し出のどれかを受け取っていたら、
こんな気持ちにならなかったんだろうか。
名前も男で、短髪の姿形も男みたいなあたしを、後輩たちが何て呼んでいるのかは知っている。
美瑛学園の王子様。
それもどんな美少女にもなびかない、難攻不落の王子様。
女子校になんか通ったのがそもそもの間違いだったのかな、あたしは思った。
女子校には独特の雰囲気がある。
少女の花園には、むせかえりそうな秘密がいっぱい詰まっている。
学園には女の子しかいないというのに、彼女たちは自然とそこから王子様を見つけ出し、恋い焦がれる。熱い眼差しが彼に注がれる。この三年間、それはあたしだった。
『あたしは王子様なんかじゃないのに』
毎回そう愚痴るあたしに、一回付き合ってみればいいじゃんと、莉子はやっぱり毎回冗談っぽく言うけれど、それは何か違うとあたしは思ってた。
『じゃ、その王子様キャラやめれば?』
変わらないショートカットに、ジャージの服装を差してそう言われる。
『でも、このほうが楽なんだもん』
答えると、いつも莉子は呆れ顔で肩をすくめるのだった。
どんな格好してたって、あたしは王子様じゃないんだってば――。
帰宅すると、あたしは封筒を開きもせずにゴミ箱に捨てた。
捨てられたふわふわウサギは悲しそうにあたしを見た。
その眼差しのせいかどうかわからないけれど、ベッドに寝転んだあたしは、ぼんやりと思った。
莉子の言うとおり、今度告白されたら、その子と付き合ってみようか。
好きじゃなくったって、結果振られたって構うもんか。
あたしが王子様だなんて幻想だってことを、みんな思い知ればいい。
そう決めると、何だか少し楽になったように気がした。
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