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「……ごめん」
息を吐き出すようにそう言うと、桜井ひまりと名乗った、その女の子の瞳は潤んだ。
大きな瞳だ。その上、その周りを縁取るまつげも、つけまつげを疑うほど長い。
けれど、それが間違いなく天然物であることは知っている。
この美瑛女子学園高等部は校則が厳しく、化粧なんてバレた日には即退学、と固く決められているからである。
あたしは、黙ったままうつむいてしまった桜井ひまりの肩を見下ろした。
小さな肩だ。華奢で、少しでも強い力で掴んだら折れてしまうんじゃないかってくらい。
セーラー服の前で結ばれたリボンは、彼女が一年生であることを示す赤い色をしていて、上履きのつま先とおそろいだ。
そのリボンと、つま先の間で、細い指が震えている。
可愛らしいピンク色の封筒がクシャッとしわになって、シールのウサギがゆがんでいる。
羊みたいにふわふわな、可愛らしいウサギだ。
毎度のことながら、どうしたらいいのかもわからずに佇んでいると、桜井ひまりが顔を上げた。
目尻と鼻の先がぽっと赤くなった、ドキっとするほど可愛い泣き顔だ。
「……あたしのほうこそ、すみませんでした、嵯峨野先輩」
ぺこり、漫画だったら絶対にそんな擬音が出るくらい、可愛らしいお辞儀をする。
「でも、これは受け取って下さい。一生懸命書いたので……じゃ」
強引に封筒を押しつけると、桜井ひまりは結んだ髪をなびかせながら走っていく。
顔を押さえているのは、涙が止まらないからなのだろう。
あたしはその後ろ姿を見送って――長く重いため息をついた。
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