月たちのビオトープ

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「男は初めてでしょう。というより、女性がお好きですよね?」  ぐっ、と喉で息が詰まった。図星だった。そんな動揺を悟られないように、酒を一息で呷った。するとすぐに、また新しいものを注がれそうになったので、それを掌で軽く押し返して制止する。 「……そうかもしれない、けど、」 「それでも来てくださって、嬉しいです」  目を少し細めて微笑むと彼は酒器をローテーブルに置いて、並んで腰かけているゴブラン織りのソファの距離を僅かに詰めてきて、お猪口を持つ手にそっと自分の片手を添えてきた。 「お酒はもう、よろしいですか?」 「……あぁ」  されるがままに手の中の器を取り上げられるとその空いた空間に手のひらを滑らせて重ねてきた。適度に乾いていて滑らかにひんやりとしている手だ。ゆっくりと蠢いて手を握りながら肩に寄り掛かってくる。 「もう少し、酔わなくて大丈夫ですか?」  おかしい質問だと、くつくつ喉で笑うと間近にある黒い髪に鼻先を寄せた。何か、甘い花のような香りがする。空いているもう片腕で華奢な肩を抱き寄せる。やっと、触れることができた。 「そんなに僕のこと酔わせたい?」     
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