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台所もテーブルの上も、朝の四時半に起きての私の奮闘を物語るかのような散乱のしかたである。ふと、時計をみるとすでに六時を過ぎている。私はあわてた。祐ちゃんが迎えに来るまでに一時間もない。お弁当を作りながら味見をしていたのでお腹は満たされているが、髪をセットしてお化粧もしなくてはならない。
「おかあさん、ごめん。台所の後片付けお願い」
私は台所の後片付けを母に押しつけて、先ずはシャワーとばかりにバスルームへと飛び込んだ。
「ピンポーン」
玄関先でチャイムが鳴った。ソファーで寝そべっていたクロが重たい身体を起こして玄関先へと走る。本人(猫)は走っているつもりかもしれないが傍目からそうは見えない。
「ハーイ」
母がよそ(・・)行き(・・)の声を出しながら玄関先へと急ぐ。いつのまにか着替えを済ませ、ファンデーションの香りさえ漂わせている母。
「おはようございます。斉藤祐治です」
玄関ドアの向こうから祐ちゃんが改まった声を発している。
「おはようございます。いつも亮子がお世話になっています」
ドアを開けて祐ちゃんを母が招き入れる。そして、満面の笑顔を振りまきながら立て続けに発する。
「今日は朝早くから申し訳ありませんね。亮子の母でございます」
もちろん、この短い時間の間に祐ちゃんの品定めを怠ることはない。失礼のないようにとの配慮はしているのかもしれないが、祐ちゃんの頭のてっぺんから靴の先までのチェックと、祐ちゃんが漂わす雰囲気に点数を付け、及第点とばかりにうなづくように二回顔を立てに動かした。
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