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「祐ちゃん、ごめん」
私は母を押し退け、玄関の外へでた。
「あら、亮子。紹介はしてくれないの」
祐ちゃんのことはこれまでにも散々話してある。大きなお弁当を作ればいやがおうにでも説明をしなければならない。
「祐ちゃん。斉藤祐治っていうのだけれどご両親を事故で亡くされてコンビニ弁当専門だからせめてボランティア活動の日ぐらいは・・・。小田原市役所の観光課。二歳年下。お姉さんは横浜、妹さんは埼玉。結婚して別に住んでいるらしい」
何度となく母には、聞かれる度にそう話してきた。
「おかあさん、時間がないからまたこんど」
「えっ、そうなの。あら、そのスカーフお似合いね」
私は大きなお弁当箱の入った赤いトートバックを宝物のように抱え、門の外へと祐ちゃんを押し出した。門の外へ出た祐ちゃんは、玄関先に出てきている母に深々と頭を下げから運転席のドアを開けた。
「祐ちゃん、そんなことはいいから早く乗って」
私は、近所の手前もあって一刻も早く出発したかった。私と祐ちゃんを母親が玄関先まで見送っているところを近所のおばさんに見られでもしたなら、「お嬢さんもいよいよご結婚ですか?」と、近所中の噂となってしまう。
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