私と祐ちゃんとクロとシロ(1)

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東京の大学を卒業して小田原市役所の観光課に祐ちゃんは勤めている。そして休みの日には、小田原城を中心とした観光案内のボランティア活動をしている。私は横浜の短大に自宅から通った。そして、卒業と同時に小田原商工会の事務員として勤める傍ら、祐ちゃんと同じボランティア活動を始めた。案内人は一様に市から提供されるピンクのブルゾンを着込む。背中には「無料観光案内人」と染め抜かれている。首に案内人証を下げ、誰もが誇りをもって活動していた。 ボランティアとしては祐ちゃんの方が一年先輩にあたる。ほとんどの活動仲間は定年退職後における地域への奉仕活動とボケ防止を表向きの目的としている。しかし実態は、長年連れ添った妻から追い出されるように毎日詰め所に通って来るのだ。暇を持て余し、家でゴロゴロするよりは歩行運動を兼ねた観光案内をする方が健康的だからだ。もちろん女性の案内人も多くいる。男性の場合と違って、嫁姑の問題が絡んでの参加のようだが、私は立ち入らないようにしている。愚痴の聞き役には廻りたくないのが正直なところだ。     
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