私と祐ちゃんとクロとシロ(1)

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案内人の全てが手弁当のボランティアで小田原城址公園の正面入り口の観光案内事務所に詰めることになっていた。もっとも観光案内をするには小田原における歴史や名所における知識がなくてはならない。私は、毎年秋に開設される観光大学に三箇月ほど通って講義を受けた。卒業するには試験に合格をしなければならない。もっとも再講習を受けることになる人がまれに発生はするが、全員が合格となっていた。そもそも観光案内ボランティアに応募する人はそれなりの知識も見識もある定年退職者がほとんどであった。私のように三十二才の独身女の観光案内人は初めてのことらしい。若い男の案内人も祐ちゃんが初めてらしいが、市の観光課の職員でもあり私たちを管理指導する立場でもある。 月に二回以上、案内人としてボランティアに参加できる日を事前に申請する。それを取りまとめて偏らないように調整をするのが祐ちゃんの仕事でもあった。土日や祭日、観光シーズンなどは過去のデータに基づいて案内人の人数を増やすのが祐ちゃんの腕の見せ所となる。観光案内所に詰める人数が多過ぎても少な過ぎてもトラブルに?がることがあり、年寄りたちの機嫌を損ねると解消するにはなみなみならぬ労力がいる。 しかし、祐ちゃんは老人たちの人気も高く、すこぶる平和な日々が常態化している。 私が参加する日のほとんどにおいて、祐ちゃんもボランティアに参加している。観光案内の申し込み者を待つ間、年齢が近いこともあって会話が弾むことも多い。祐ちゃんは両親が残してくれた一軒家に一人で暮らしていることがわかった。祐ちゃんは三人兄弟の真ん中。お姉さんと妹さんはすでに結婚をして横浜と埼玉に住んでいるとのことだ。 「家のこともやらなくてはいけないし大変ね」 「もう馴れたさ」 私の母性本能をくすぐったフレーズだった。短い言葉の裏側に「本当は疲れることばかりさ」と訴えている祐ちゃんの声が私には聞こえた。     
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