2人が本棚に入れています
本棚に追加
いつのまにかおばさん案内人たちまでもが、祐ちゃんと私との空間を取り巻いていた。私は、おばさんたちに言われるまでもなく逸る心を抑えながら首にスカーフをあてがった。
「素敵じゃない亮子さん。よく似合ってよ」
「こっち、こっち」
おばさんたちは、私の背中を押すように休憩室の壁に備えつけられている鏡の前に立たせた。私の首に巻かれたグッチの絹のスカーフはその柔らかさを充分に引き立てながら初冬の風を待つかのように見えた。
「よく似合ってよ、亮子さん」
「初冬の風に小枝が踊る。木の葉が散る中をお揃いのロングコートの二人が寄り添って並木道を歩いている。亮子ちゃんの首に巻かれたグッチのスカーフが風にゆれる・・・。ロマンチックだわー」
「それにしても祐治君にこんなセンスがあったなんて驚くわね」
「ほんと」
おばさん連中は好き勝手に遠慮がない。
「姉貴の見立てなんですよ」
「そうだろうな。あのお姉さんならセンスもいい。第一、美人だ」
どうやらグッチのスカーフは祐ちゃんのお姉さんが選んだらしい。私は会ったことがないが月に一度、ご両親の月命日にお線香をあげに実家に帰って来るのだ。
最初のコメントを投稿しよう!