私と祐ちゃんとクロとシロ(1)

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祐ちゃんのご両親は二年前に参加したツアーのバス事故で救急治療の甲斐もなく、ともに亡なったらしい。それ以来、祐ちゃんは独り暮らしと聞いている。いや、正確には独りと一匹の生活である。祐ちゃんは「シロ」という名前のオスの雑種犬を飼っているのだ。毎日二回、「シロ」と一緒に散歩をしていると聞いていた。そのときの話では九歳の成犬だと言っていた気がする。実は私もペットを飼っている。もう十年を過ぎた。短大を卒業して小田原商工会に勤めだした頃の仕事の帰り道。小雨が降っていた。家の近くの公園を通り掛かると、子猫の泣き声が聞こえてきた。大きな楠木の根元に置かれたダンボール箱に三匹の子猫が捨てられていた。幸いにしてダンボールはまだ雨に濡れてはいない。私は箱ごと持ち帰り、ほんのり温めた牛乳を与えた。捨てられた悲しさと空腹からくる切なさそうな泣き声。それが、甘えの鳴き声に変わった。翌日私は勤め先で養子先を探すために、 誰かまうことなく何十回と頭を下げて廻った。その甲斐があって二匹の養子縁組が決まった。残った一匹の子猫は私が飼うことにしたのだ。黒い毛並みから「クロ」と名付けた。小雨に震えていた子猫も今では重い身体を持て余すかのようにお尻を振りながらゆったりと歩いている。 「祐治君、ありがとう。とっても素敵」  私は、お礼の言葉が小躍りしているのを感じながら鏡の前でUターンをしては、自分の後ろ姿に微笑んだ。 「おいおい、ここだけ夏に逆戻りか」 私と祐ちゃんは、老人たちに押し出されるように観光案内詰め所を背にして城址公園のお掘り端を歩いた。特になにかを話すわけでもなくただ肩を並べて晩秋の風を感じながら歩いた。 「ねえ、祐治君。こんど二人でディズニーランドにいかない?」  無言で歩くことに疲れた私は、スカーフのお返しとばかりにデートに誘ってみた。 「いいよ、来週の土曜日かその次の土曜日でどう?」 「じゃぁ、来週の土曜日」 「わかった。亮子さん家(ち)に迎えにゆくよ」  とんとん拍子で祐ちゃんとの初デートが決まった。祐ちゃんのお弁当を作るようになって半年。十回以上は祐ちゃんのためにと、早起きをして腕を奮ってきた。     
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