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その1
膝の上とあっては、角張ったルート記号も丸みを帯びることを避けられない。しかし、彼はそんなことはお構いなしにペンを走らせる。
夏の県立体育館。県高校総体、卓球会場。
周囲には覇気のある声がこだましている。県立体育館は青春をスポーツに燃やす高校生たちで溢れかえっていた。
「ねぇねぇ何してるの?」
利沙は振り返って彼に問いかける。
「微分」
利沙は身を乗り出して彼のノートを見た。
「へぇー。ねぇここ体育館だよ? なんでノートとペンなの? ラケットは?」
ショートカットで小柄な利沙は県の強豪チームのエースだ。いつも本屋と図書館が寝ぐらで、弱小校の彼とは住む世界が違う。卓球部に所属する高校生、という点で同じであるが、二人は目指すところが違う。
「ラケットならあるよ。でも僕は今日、というか大抵は試合に出ないからね」
「あたしとやろうよ。いま暇だから。サブアリーナいこ」
そういうと利沙は彼の手を引いて立ち上がる。
ノートやペンを落としそうになった彼はぎりぎりのところでつかんで、適当にバックにしまい込む。
「まぁいいけど」
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