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どんなに悪質な歯医者だって、僕をこんなに長いこと口を開けっぱなしにはさせないと思う。
大人の風たちは、互いに一歩も譲らず、僕の頭上で羽を上げたり下げたりの攻防を繰り広げていた。
僕、もう顎が外れそうなんだけど。
だけどいつチャンスがやって来るかわからないから、口を閉じることができない。
僕は涙と鼻水とよだれが止まらない酷い状況になって、ついに
「あーーああーあーあああ」(もう限界だよぉ)って言った。
口を閉じようとした瞬間、北風の子が僕の耳元で叫んだ。
ーーショウヤ! 絶対に口を閉じないで! いいねっ!
言ったかと思ったら、ピューーーっと冷たい風が僕の口の中に飛び込んで、舌先を掠めて出て行った。
ーーもういいよ。さぁ飲み込むんだ
言われた通り、固まって動かない顎を両手で抑えて、ゆっくり閉じた。
すると、喉のところになにか引っかかっているものを感じる。
僕はカラカラに乾いた喉に、何度も唾を送り込んで、やっとこそれを飲み込んだ。
途端に、僕の周りでは歓声とブーイングが同時に巻き起こった。
北風の子が僕の周りをグルグル回る。
ーーやったね、ショウヤ、君は北風の力を手に入れた!
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