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北風の力を手に入れて、僕が変わったことといえば。
まずは、寒さに強くなったこと。それまでしていた帽子やマフラーを身につけなくても、平気で外に出られる。上着も着なくてもへっちゃらだ。けど逆に言うと、極度の暑がりになったとも言える。
だからユウスケのために温められた部屋にいると、身体中から汗が吹き出て来る、だけじゃなくて、油断していると僕の頭上で積乱雲が発生しそうになって、慌てて部屋を出なきゃなんない。
僕は人間だから、汗という水分が雲を作るけど、これが北風だけだと雲と一緒に自分も消滅してしまう。
ーー僕が君の部屋からうっかりリビングに飛んで行った時、危うく消えかけたんだ
北風の子が暗い声でそう言う。もし顔があったら、きっと絶望的な表情をしているんだろうなぁ、と僕は可笑しくなった。
ーーなに、笑ってんのさ
拗ねたような声色に変わった。僕は首と一緒に手も振って、
「ねえ、君の名前ってあるの?」と聞いた。
「君が僕をショウヤと呼ぶように、僕も君を特別な名前で呼びたいな」
僕がそう言うと、北風の子は、
ーー僕らに名前なんてないよ。好きに呼べばいいさ。と言った。
だから僕は考えた。犬や猫とはまた違う。なにか特別な名前がいいな。
まあ、風だから……、
「フウヤでどう?」
フウヤは弾むように、屋根の雪をシュッーっと吹き上げた。
青空に氷のカケラがキラキラ、キラキラ広がる。
僕は嬉しくなって、空に向かって両手を伸ばした。
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